1:目前に迫る「医師の働き方改革」施行
目前に迫る「医師の働き方改革」施行
こんにちは。医師転職支援の「メディカルプラスキャリア」です。今回の記事は、来る2024年4月施行の「医師の働き方改革」をテーマにお送りします。
医師の皆さまは、日々目の前の患者さんと向き合っていらっしゃるなか、良いパフォーマンスを発揮するためにも、ご自身の働き方とも向き合う日々かと存じます。日本では、いつ、どこにいても必要な医療が受けられる社会を守るため、医療者が日々努力を重ねている一方、そういった環境は、医師の長時間労働によって支えられます。医師の勤務時間において、時間外労働が年 1,860 時間以上の医師が約 1 割であったとする調査結果も出ており、特に、20 代、30 代の若い医師を中心に、他職種と比較しても突出した長時間労働の実態がございます。
【参考資料】
厚生労働省:医師の働き方改革~患者さんと医師の未来のために~病院勤務医の勤務実態調査
厚生労働省:医師の働き方改革に関する検討会報告書:平成 31 年 3 月28 日
日本では少子高齢化が進み、高齢者の増加に伴う医療需要の高まりや生活習慣病などを中心とする医療ニーズの変化など、患者さんの生活や健康状態に合わせた総合的な医療提供が求められております。これからも増加する高齢患者さんへの治療には、時間と人手が必要であり、医療の質の面では、医療が高度化するほど、修練に年月がかかることも想定されます。
このように医師個人の業務が増える可能性がある中、医師の長時間労働は、個々の医療現場における「患者さんのために」「日本の医療水準の向上のために」が積み重なったものかと思いますが、日本の質の高い医療を将来にわたって持続させるためには、「医師の長時間労働」の現状を変えていかなくてはなりません。そのような事から、多様な医療従事者が健康に活躍し続けるためには、働きやすい環境を作っていくことが大切であり、医師、患者さん双方にとって重要な事なのです。
今回は働き方改革の中でも「長時間労働」・「労働時間の考え方」・「施設水準」・「タスクシフト/シェア」についてまとめますので、今後の転職の考える際にぜひご参考ください。
2:長時間労働によるデメリットとは?
冒頭でお話ししましたが、日本の医療は、医師の長時間労働によって支えられています。長時間勤務中には、ヒヤリ・ハットを経験した方もいることでしょう。さまざまなデータからも分かるように、医師の勤務時間が長くなるほど、医療事故やヒヤリ・ハットの経験割合が高まっています。また、長時間労働はパフォーマンスの低下やバーンアウト(燃えつき)のリスクとも関連しており、そのデメリットが指摘されています。
長時間労働が原因で睡眠不足が生じ、作業能力が低下し、反応の誤りが増加することも確認されています。慢性的な睡眠不足では主観的な眠気と客観的な疲労・覚醒度低下が乖離する状況が発生し、医師が過重労働を続ける中で正確な判断が難しくなっています。医師は強い使命感や責任感により勤務を続ける中で、主観的な眠気を生理学的に認識しにくい状況にあり、これが正確な判断を難しくしているのです。
このような背景から、医師が健康に働き続けるためには、医師の労働時間外や休日労働の上限などをしっかり整備する必要があります。これは医師本人だけでなく、患者さんに対して提供される医療の質や安全を確保し、同時に持続可能な医療体制を維持する上でも重要です。地域医療提供体制の改革や、看護師・臨床検査技師・薬剤師・医療事務作業補助者などの各職種の専門性を活かし、患者さんに質の高い医療を提供するタスクシフトやシェアの推進も必要です。そのため、2024年4月から実施される「医師の働き方改革」が重要視されているのです。
3:労働時間の基本的な考え方
ではここからは、労働時間の基本的な考え方についてご説明いたします。
雇用されている医師は「労働者」であり、労働基準法が適用されます。労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。つまり、上司などの指示によって行われる作業は労働時間に該当します。同様に、研鑽についてもこの考え方が適用されます。ポイントは、その活動が使用者の指揮命令下にあるかどうかです。以下に、研鑽の具体例を記載いたします。
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【研鑽にあたる具体例とは】
◆診療ガイドラインや新しい治療法などの勉強
◆学会・院内勉強会等への参加や準備、専門医の所得・更新に関わる講習会受講等
◆宿直シフト外で時間外に待機し、手術・処置等の見学を行うこと
※上司の指示の下で行われる場合は、労働時間となります。
※詳しくは、現在勤務されている施設に研鑽の扱いについて確認を行いましょう。
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また、労働時間について、宿日直が労働時間に含まれるのかなど、疑問が生まれることでしょう。宿直中の手待ち時間も原則として労働時間に含まれます。ただし、医療機関が労働基準監督署に宿日直許可を受けている場合は、その宿日直に関わる時間は規制の対象外となり、労働時間には含まれません。それでは、宿日直基準とはどのようなものなのか、下記に宿日直許可の基準を記載いたします。
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【宿日直許可基準の概要とは】
◆常態として、ほとんど労働のする必要のない勤務であり、通常の労働の継続ではないこと。
◆問診などによる診療(軽度の処置を含む)等、特殊の措置を必要としない軽度、又は短時間業務に限ること
◆夜間に十分睡眠が取り得ること
◆通常と同じような業務がまれにあっても、一般的にはほとんど労働することがない勤務である場合には許可は取り消さない
※確認が必要な場合は、所属施設のルールを確認してください。
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またご存じかと思いますが、労働時間には法律上の上限があります。具体的には、「1日8時間・週40時間」が法定の労働時間とされています。もしやむを得ずこれを超える場合は、労働者と医療機関の双方が合意する協定が必要になり、この協定は「36協定」と呼ばれています。ただし36協定を締結したからといって、労働時間の上限がなくなるわけではありません。むしろ、この協定においても依然として、定められた上限までしか働くことができません。また労働時間には通常の労働時間制、変形労働時間制、専門業務型裁量労働制など様々な形態が存在します。そのため、まずはご自身の雇用契約書を確認することが重要です。それによって、どの形態が適用されているかを理解し、適切な労働時間の枠組みを把握することがおすすめです。
4:時間外・休日労働時間の上限「A水準」「B水準」「C水準」
続きまして、時間外・休日労働時間の条件、A水準、B水準、C水準についてご説明いたします。
下記記医療機関に適用する各水準の時間外・休日労働時間の上限について記載しており、診療に従事する医師は、以下のいずれかの水準が適用されます。
【参考資料】
厚生労働省「医師の働き方改革概要」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001129457.pdf
上記の「連携B水準」「B水準」はあくまでも暫定的な特例であることから将来的にはなくなり、「A水準」の適用に収斂(しゅうれん)していくとされており、都道府県単位での医師偏在を解消する目標年とされている2036年に向け、医師偏在対策の効果が徐々に現れてくると考えられております。2024年4月以降も3年に1回のサイクル(2027年度・2030年度・2033年度)で、実態調査等を踏まえた段階的な見直しの検討を行いつつ、規制水準の必要な引き下げを実施し、2035年度末を目標に「連携B水準」・「B水準」は終了することとなります。
それでは、すべての勤務医に対して、原則的に適用される「A水準」を除いた各水準は、どのような施設が対象なのかについて記載してまいります。出典は「医療機関勤務環境評価センター」の以下資料となりますので、合わせてご参考ください。
【参考資料】
医療機関評価センター「対象医療機関について」
(1) B水準(特定地域医療提供機関)
・「救急医療提供体制及び在宅医療提供体制のうち、特に予見不可能で緊急性の高い医療ニーズに対応するために整備しているもの」・「政策的に医療の確保が必要であるとして都道府県医療計画において計画的な確保を図っている「5疾病・5事業」」双方の観点から、
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i .三次救急医療機関
ⅱ.二次救急医療機関かつ「年間救急車受入台数1,000台以上又は年間での夜間・休日・時間外入院件数500件以上」かつ「医療計画において5疾病5事業の確保のために必要な役割を担うと位置付けられた医療機関」
ⅲ.在宅医療において特に積極的な役割を担う医療機関
ⅳ.公共性と不確実性が強く働くものとして、都道府県知事が地域医療の確保のために必要と認める医療機関(例)精神科救急に対応する医療機関(特に患者が集中するもの)、小児救急のみを提供する医療機関、へき地において中核的な役割を果たす医療機関
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特に専門的な知識・技術や高度かつ継続的な疾病治療・管理が求められ、代替することが困難な医療を提供する医療機関(例)高度のがん治療、移植医療等極めて高度な手術・病棟管理、児童精神科等
・上記機能を果たすために、やむなく、予定される時間外・休日労働が年960時間を超える医師が存在すること。 (B水準が適用されるのは、医療機関内の全ての医師ではなく、上記の医師に限られる)
(2)連携B水準(連携型特定地域医療提供機関)
・医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医療機関(例)大学病院、地域医療支援病院等のうち当該役割を担うもの
・自院において予定される時間外・休日労働は年960時間以内であるが、上記機能を果たすために、やむなく、他の医療機関での勤務と通算での予定される時間外・休日労働が年960時間を超える医師が存在すること。
(3)C-1水準(技能向上集中研修機関)
・都道府県知事により指定された臨床研修プログラム又は日本専門医機構により認定された専門研修プログラム/カリキュラムの研修機関であること
・36 協定において年 960 時間を超える時間外・休日労働に関する上限時間の定めをする必要があること
・「適正な労務管理」と「研修の効率化」が行われた上で、医師労働時間短縮計画に記載された時間外・休日労働の実績及び指定申請の際に明示されたプログラム・カリキュラムの想定労働時間(プログラム全体及び各医療機関における時間)を踏まえ、36 協定において年 960 時間を超える時間外・休日労働に関する上限時間の定めが必要と考えられること。
(4)C-2水準(特定高度技能研修機関)
・対象分野における医師の育成が可能であること
C-2水準の対象として厚生労働大臣が公示する「我が国の医療技術の水準向上に向け、先進的な手術方法など高度な技能を有する医師を育成することが公益と上必要である分野」において、C-2水準の対象として審査組織が特定する技能を有する医師を育成するのに十分な教育研修環境を有していることを審査組織において確認する。
・36 協定において年 960 時間を超える時間外・休日労働に関する上限時間の定めをする必要があること 医師労働時間短縮計画に記載された時間外・休日労働の実績及び審査組織の意見を踏まえ、36 協定において年 960 時間を超える時間外・休日労働に関する上限時間の定めが必要と考えられること。
上記に記載した区分から、医療機関が医師の労働時間短縮計画の案を作成し、評価センターに提出後、評価を行い、各都道府県知事が指定し、医療機関が計画に基づく取組を実施することとなります。
5:「医師の働き方改革」のポイント
ここまでの「医師の働き方改革」のポイントを、下記にまとめました。
●医療機関が医師の労働時間短縮計画の案を作成する。
●時間外・休日労働は月100時間未満の上限もある。
●時間外・休日労働が月100時間以上と見込まれる医師には、面接指導が義務である。
●面接指導を行う医師は講習を修了している医師が行う。※勤務している施設の管理者でないこと。
●複数の医療機関で勤務する場合には、時間外勤務を通算して計算する必要がある。
●非常勤先での勤務も労働時間外勤務となる可能性があるため、施設として医師から勤務時間の申告を受けるルール化が必要である。
●B・連携B・C水準の対象医療機関としての都道府県による指定の有効期間を3年としており、指定の際に評価結果を踏まえる必要があることから、評価についても3年に1回受ける必要がある。
●連続した休憩時間を確保する必要がある。
●休憩時間の確保はA水準であれば「努力」義務であるが、連携B、B、C-1、C-2は「義務」である。
●原則、24時間勤務時には9時間の休憩(インターバル)、許可なし宿日直の場合だと46時間勤務時には18時間休憩確保が必要である。
●休憩中に緊急で業務が発生した場合は対応することが可能だが、代償休息が必要があり、その場合翌月末までに与える必要がある。
休息時間の確保(インターバル)については、厚生労働省提供の以下イメージ図が把握しやすく、ご紹介いたします。ぜひご参照ください。
【参考資料】
厚生労働省:「医師の働き方改革~患者さんと医師の未来のために~(詳細編)」
6:タスクシフトとシェア
次に「タスクシフト/シェア」についてご説明いたします。
すべての医療専門職がそれぞれの専門性を活かし、パフォーマンスを最大化することにより、専門性を活かした効率化が進み、より質の高い医療提供が可能となります。これまで医師しか行えなかった業務について、特定行為研修を受けた看護師は、医師の作成した手順書により、医師の判断を待たずに特定行為を実施することができ、看護師、臨床検査技師、薬剤師、医療事務作業補助者などが専門的な業務を行うことにより、医師の業務過多が解消される一つの施策だといえるでしょう。
※特定行為研修修了者は令和5年3月時点で6,875名となっております。
【参考】
厚生労働省:いきサポ「医師の働き方改革~患者さんと医師の未来のために~詳細編:特定行為研修を修了した看護師数」
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/commentary_slide
7:勤務先でのお悩みを抱えている先生へ
いかがでしたでしょうか。今回は「医師の働き方改革」の中で注目されるポイントである「長時間労働」・「労働時間の考え方」・「施設の水準」・「タスクシフト/シェア」について紹介いたしました。
国ではこの働き方改革により、ご勤務されている先生方の長時間労働が解消され、ワークライフバランスの取れた勤務を目指しています。働き方改革により今後も日本の医療の質・安全が確保され、患者さんに持続可能な形で高品質な医療を提供し、地域に必要とされる医療を継続的に提供できる社会の実現が期待されています。
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